現在、コレオグラファー(振付師)として活動する歩里(あゆり)さん。
幼いころから新体操を始め、鳥取市で開催の全国大会に出場。
大学進学を機に、新体操からダンスの道を選択。ダンスをするなかで、次第に振り付けに興味を持ち、現在は振付師としてダンスグループ「Rythroom煌(リズルームファン)」を率いる。そのかたわら、新体操クラブチームの「鳥取ジュニアRG」のサポートスタッフ、高校の体育の非常勤講師をしている。
様々に転身しながらも、体を動かし、表現し続けることで彼女が見たものは何だったのか。
生活の中心は新体操
両親の影響で、気がついたら幼いころから新体操をしていたという歩里さん。
楽しい感覚はなくて、やらない選択肢がなかったから、と当時を振り返る。
試合の前は、夜の公園で泣きながらでも特訓をした。
小学生といえば、遊びたい盛リのころだが、彼女には遊ぶ時間はほとんどなかった。
生活の中心は、新体操だったという。
義務感のなかでやっていた新体操だったが、転機が訪れたのは小学4年のとき。
自分が中学3年生になるころに、鳥取市で新体操の全国大会が開催されることが決まった。県がバックアップするなかで、大きい大会に出る機会も増え、越境留学も体験。厳しい練習を重ねるなかで、結果を出すことができた。こうしたなかで、次第に歩里さんは新体操に目覚めていった。
自分から、「新体操を続けたい!」と決め、憧れの先輩たちがいる高校へと進学。
作品が出来ていく過程が楽しい!
新体操を続けるなかで、自分はプレイヤータイプではないという自覚が生まれた。作品が出来ていく過程が楽しい!先生が作っていくのが魔法みたいに感じられた。いつしか、つくり手になりたいと思うようになっていた。
高校3年のころ、自身が所属していた新体操のクラブチームの小学生チームの指導に携わった。その時に体験した作品づくりがとても楽しかったことは、歩里さんのその後の進路に大きく影響を与えた。
高校3年の新体操のインターハイでは不完全燃焼だったため、新体操を続けようと思ったものの、両親が続けることを大反対したことと反抗する気持ちもなかったため、新体操から引退した。
引退後は、海外のダンス番組に夢中になった。
「点数が出ても出なくても、見ている人がどう思ったかで変わる世界が面白い」と感じた。
ダンスには、決まったジャンルもなく、正解もない。音楽が好きで、表現することが好きだったことから、歩里さんはダンスをすることに決めた。
新体操からダンスへ
大学進学で東京へ出ると、歩里さんはダンススクールに通い始めた。大学でもダンス部に所属し、ジャズヒップホップを中心にレッスンを受けた。いろんなイベントにも出るなど、ダンスを楽しんだという。
大学を卒業するころ、東京で仲良しの友人が会社の内定をもらったり、ダンスチームを組んでいた子がミュージックステーションのバックダンサーに出るなど、歩里さんは置いていかれた気分になったという。
「自分がやりたいことは何だったのか?」自問自答するなかで、「振り付けをしたい!」という、作品づくりをしたかった自分を思い出した。
やっぱり振り付けがしたい!
大学卒業後、かつて所属していた新体操のクラブチームからの声がけもあり、歩里さんは地元に戻り、新体操の作品づくりをもう一度してみようと決めた。
ただ、体育大学を出ていないことに後ろめたさを感じ、思い切って、鳥取と交流のあるロシアに短期留学をした。
歩里さんは、オリンピックに出るためのスポーツ選手育成スクールで鍛えられている子どもたちを見て、日本とはあまりにも違う環境にカルチャーショックを受けた。わずか4歳からの子どもたちの過酷な練習現場が広がっていたのだ。
帰国後、新体操クラブチームのスタッフのほか、スポーツジムでダンスレッスンをしながら、鳥取だからできることがあるはずだと模索を始めた。
あるとき、歩里さんがYou Tubeを見ていると、「私がやりたかったのはこういうことだ!こういうダンスを作ってみたい!」と思える理想的なダンスに出会った。
ちょうどそのとき、予選落ちしてしまったけれど、新体操で能力のある小学生たちがいた。「この子たちにダンスをさせてみよう!」歩里さんは思い立った。
ダンス教室「Rythroom煌」を立ち上げる
歩里さんのひらめきは、大きな希望の扉を開くこととなる。
新体操とダンスをミックスした振り付けで県のダンス大会に出場し、見事優勝した。
これは歩里さんには大きな自信になり、振り付けを続ける決意をすることとなった。
1回ワンコインで来たい人だけが参加できるダンス教室をスタート。
「すごく楽しかったです」と語る歩里さん。
ただ、1回ワンコインでは、メンバーが固定されないため、しっかりとした作品づくりには向かない。それまでのワークショップ形式の教室をやめ、新しく「Rythroom煌(リズルームファン)」を名前をつけて固定のメンバーによる教室を立ち上げた。
最初は2人からのスタート。そこから地道にコンテストに参加するなかで、人数も増えていった。
個性できらめきたい
現在、「Rythroom煌(リズルームファン)」はジャンルを設けず、個性をいかした作品づくりをしている。
鳥取で開催されたアニメダンスのコンテストでは、グランプリを獲得した。この流れで、日本で一番大きなアニメダンスのコンテストに出場するため、東京へ。
「このアニメダンスのコンテストに出たときに、お互いの尊敬がすごくて、まるでそのアニメの世界を見ているようで面白かった」と目を輝かせて語る歩里さん。
ダンスを通して、見せたいものが明確になっていったという。
「個性できらめくことを大事にしたい」
勝ち負けではなく、「面白い」と思ってもらえたらいい。音楽に合わせて、その世界を表現したい。
「地方だからできることもやっていきたいです」
現在は、ダンス教室「Rythroom煌(リズルームファン)」のほか、自らも踊るダンスグループ「舞playful AiM(マイプレイフルエイム)」で年齢や所属、ジャンルを越えたパフォーマンスもしている。
面白い人になりたい
さまざまな変遷を経ながらも、表現を続けてきた歩里さん。
続けることで、やりたいことが明確になっていく。いつも興味のあることがある。
「もっと自分が面白くなるにはどうしたらいいかな。面白い人になりたいんです」と最後に笑って話してくれた。
歩里さんが主宰するダンス教室は、見学可能。生徒も募集しています。
詳しくは、お問い合わせください。
Rythroom煌 ダンス教室
インタビューを終えて
表現することへの情熱が並ならない。
さまざまな変遷を経てなお、作品を作ること、踊ることへの情熱が溢れ出ている。
続けてきたからこそ、見えてきたものはもちろん、常に先を見て面白いことをしたいという探究心を感じた。
辛さも葛藤も達成感も喜びも感じてきたからこそ、生み出せるものがある。
これから、どんなパフォーマンスが生まれるのか、目が離せない。