鳥取の中部地区、琴浦町。
海に面したのどかな町で北側は大山の麓にいたる自然豊かな地域だ。
ここに事務所をかまえ、山陰地方を中心にものづくり体験の出張ワークショップを展開する「issing」。
主にはステンシルやソーイング体験ができる。子供から大人まで楽しめる内容が魅力だ。
この「issing」の代表をつとめているのが、丸山ユキさん。
旧大栄町(北栄町)出身で現在は琴浦町に暮らしている。
もともとは手芸など手作りは苦手で好きではなかったという丸山さん。
一体なぜものづくりをテーマにした仕事を始めるに至ったのか。
お話をお楽しみください。
子供のために帽子を作ってあげたい!
issingを始めるまでは、会社勤めをしていた丸山さん。
子供が生まれて、1年間の育児休暇をとった。
子供と過ごす毎日、外遊びが好きな息子さんは直射日光も平気で駆け回る。
丸山さんは息子さんに帽子を被せようとするのだが嫌がってうまくいかない。
これまで苦手で手作りをしたことがなかったという丸山さんだったが、息子さんのために柔らかいコットンの帽子を作ってあげたいと一念発起。
「手作りにはまったく興味がなかったんですが、子供のために作ってあげようという気持ちになりました」
手作りをしたことがない状態でいきなりの帽子作り。
それも、丸山さんは6枚はぎのリバーシブルの帽子という難易度の高いものに挑戦した。
作るのはとても大変だったというが、出来上がった帽子を息子さんに被せると、瞬間、ビビっときたという。
今でもその「震える喜び」を思い出せるほどだという。
「めちゃめちゃ可愛いと思って」
息子さんに似合うようにと選んだ色や柄はピタリとはまった。
何より、帽子嫌いだった息子さんが帽子を気に入って、ずっと被ってくれたという。
以来、丸山さんは寝る間も惜しんで帽子を10個作った。
子供のためにオリジナルの服を作る
苦手だったことも、頑張ればなんとかできると自信がついた丸山さん。
今度は子供のために素敵な服を作ってあげたいと思うようになった。
はじめは既成の服で素敵なものを探していたが、気に入ったものは高額だったりと手が出なかった。
そこで、オリジナルの服を作ってみようと挑戦したのが、ステンシルを施した服だった。
ステンシルとは、型紙を切り抜いた部分に 染料や絵具を摺り込む技法だ。
型紙のデザインや配置、配色などを自由に組み合わせることで、自分だけのオリジナル作品を作ることができる。
はじめて作ったステンシルの服を嬉しそうに息子が着てくれた。
丸山さんは、自分の頑張りを息子さんが認めてくれたように感じた。
「頑張りが報われた」
育児休暇を取るまでは、仕事ばかりだったという丸山さん。
休暇中は家事に集中しすぎてイライラすることもあったが、ものづくりをしたことで喜びが生まれ、日々が報われたと感じた。
地域で話題になりステンシルの服づくりを頼まれる
丸山さんは息子さんの名前「イッシン」をアルファベットで服に書き、たくさん作っては着せた。
次第に、息子さんの服が地域で話題になり始めた。
どこで買ったのかと聞かれたことはとても嬉しかったという。
丸山さんが作っていることを知ると、周囲から作ってほしいと頼まれるようになった。
「issin(イッシン)」は息子の名前なので、アルファベットの最後に「g」をつけて「issing」としてTシャツをたくさん作って売った。
そのうちに作り方を教えてほしいと言われるようになり、これがワークショップを始めるきっかけとなった。
不器用でもできるステンシルのワークショップだ。
そこには丸山さんの経験が生きている。
ハンドメイドとワークショップをするissingとして独立
育児休暇後、仕事に復帰したが、毎週末がワークショップの依頼で埋まっていた。
1年間、ワークショップと会社勤めを両立させたがさすがに身体的にもきつくなり、丸山さんは会社を辞めて独立した。
ハンドメイドワークショップを開催する「issing」の誕生だ。
今から8年前のことである。
口コミで広まり、今では山陰地方を中心に出張ワークショップを行っている。
不器用でもできるようにやり方を工夫
丸山さんは独学でステンシルのやり方を研究した。
誰でも簡単にできるように工夫を重ね、お客さんが安心して取り組めるようにしている。
親子で体験をしてもらうことについては、子育ての時間をより良いものにしてほしいという思いがある。
一緒にものづくりをすることで、自分のことも知れるし、子供のことを思える。
「苦労せずに出来たら嬉しいじゃないですか」
喜びをしっかり持って帰ってもらいたい、と丸山さん。
丸山さんはインクも自分で作っている。
既成のインクを使っていたころに、ステンシルで作った服を洗濯して乾燥機にかけたら色が滲んだとお客さんに言われたことがあり、責任を感じて様々調合と実験を繰り返して滲まないインクを作ったのだ。
「自分で色々試してみることが面白い」
ステンシルの型のアイデアは、息子さんに似合うものはもちろん、お客さんからのリクエストからも生まれる。
最近は、デザイナーとのコラボデザインもしている。
これから
現在、年間2000人ほど教えているという丸山さん。
今後は、ワークショップで日本制覇いや、世界制覇を目指している。
一つの県に1支店を作り、みんなでつながっていきたいと語る。
若い頃は苦労が多く、自分を不幸だと思ったことが何度もあるという丸山さん。
「そんな私でも、幸せの小石を何個も握りしめていたら幸せになれたから」
考え方次第で幸せになれるし、小さな幸せを積み重ねてほしいし、それを伝えていきたい。
「きっかけを作っていきたい」
ワークショップを通して、幸せな人が増えてほしいと語る丸山さんからは強い意志を感じた。
ぜひ、ワークショップを体験したい方はホームページをご覧ください。
インタビューを終えて
キラキラと輝く瞳が印象的な丸山さん。
その奥には経験から来る意志の強さを感じる。
いろんなことがアクシデントのように起きて今に至ると語ってくれた。
まさに導かれるようにして生きているのだが、それは丸山さんが自分の人生をあきらめずになんとかしようと向き合ってきた結果だと感じられる。
現在、issingの活動のほか、地元仲間とボランティア活動もしている。
大きなことをするのではなく、自分たちがこの町でしたいことをしてみよう、等身大でできることをして楽しく暮らせたらいいなという思いからスタートしている。
地域との縁を作り、子どもたちが近所の人とも仲良くなれるつながり作りだ。
「みんなが喜ぶ姿を見るとよかったなあと思える」
丸山さんの思いは仕事にとどまらず、暮らしそのものへも広がっている。
世界制覇が楽しみだ。