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鳥取市

【ブロ彩子さん】命を込めたものを作りたい

アクセサリー作家 ブロ彩子(ぶろ あやこ)さん

鳥取市立川の住宅街の一角にある小さなアトリエ。

壁にはワイルドシルクの糸の束や緑の植物がゆるりと吊るされています。

アトリエでにこやかに出迎えてくれたのは、野生種の蚕の糸であるワイルドシルクを使ったアクセサリーを作られている、ブロ彩子さん。

現在、かぎ針編みのアクセサリー製作のほか、作り方の本の出版、ワイルドシルクの糸のオリジナル製造をしています。

今回は、彩子さんにお話を伺いました。

子供のころから手作りが大好き

かぎ針編みアクセサリー

彩子さんは、フルーツの里として知られる八頭町出身。

母親は手芸が好き、父親はカメラマンという芸術が身近な環境で育った影響もあり、子供のころからとにかく何かを作るのが好きでした。

「作れる物ならなんでも作りました。」

小学生のころは、刺繍、ビーズ手芸、ミサンガづくりなど、手芸キットなども買ってもらっていろいろな物を作っていました。

そんな彩子さんですが、高校を卒業すると映像美術を学ぶために東京の学校へ進学。

「映像の中にある”物”ひとつひとつに意味があるということに魅力を感じて興味を持ちました。」

ただの物質ではなく、命ある”物”という視点です。

学校では、映画の舞台道具の製作を通して、総合的な造形とデザインスキルを学び、現在の仕事にも役立っているそうです。

学校卒業後、手仕事を再開

学校を卒業後、彩子さんは個人でデザインの仕事をもらいながら、飲食店でアルバイトをしていました。

時間ができた時に、手仕事も再開しました。

絵を描いたり、キャンドルを作ったり、服のリメイクや編み物に取り組みました。

ここで、編み物をしながらの大きな気づきがあったと言います。

「それまでは、本を見てその通りに作っていたんですけど、手芸店でカラフルだけど自然な色のグラデーションの糸を見つけて、この糸で何かを表現したいと思ったんです。」

心に響く糸と出会ったことで、彩子さんは本の通りではなく、自分で自由に手を動かして編んでみることに挑戦したのです。

そうして出来上がったのは、帽子でした。

素敵に出来上がったことが嬉しく、自分で自由に作っていいということに気づけた革命だったそうです。

絵画作品を発表

絵画作品「色彩の雨」

そうした折、東日本大震災が起きました。

働いていたカフェの仕事も休みになり、彩子さんは1枚の絵を描きました。

絵にしたのは、以前から温めていたテーマです。

「上野公園の蓮池で友達と朝まで飲んでいた時のことなんです。朝になって陽が昇ってきて、蓮がいっせいにふわーっと開き始めて、空の色も明るくなってきた時に、色彩の粒子が雨になって降ってくるような、その雨に包まれているような感覚になったんです。」

まるで、祝福されているようで、心地よくて幸せを感じたことが忘れられず、それからはこの「色彩の雨」が絵の表現のテーマになったそうです。

このテーマは、現在の彩子さんのブランド名「Hue Rain(色彩の雨)」になっています。

この「色彩の雨」を震災の翌日に描いたのは、困っていたり、辛い思いをしている人に希望の雨が届くといいなという気持ちからでした。

その後、作家仲間から東日本大震災のチャリティー展へ作品を出品しないかとの誘いを受け、彩子さんは初めて自分の絵に値段をつけて出品しました。

自分の作品に価値を付けて人前に出すということに抵抗があり、ギャラリーへ行くのも恐怖でしたが、ここで作品が売れたことは、彩子さんにとって人生が変わる瞬間のような衝撃だったといいます。

会場で、被災地から来られた一人の女性に声をかけられ、その場で絵を買いたいと言われ、彩子さんは思わず泣いてしまいました。

「大変な被災地から来られて、どんな思いだったのだろうと想像して」

その女性は、「あなたの気持ちは何も言わなくても伝わるわ」と言って手を取ってくれたといいます。

「作品には気持ちや思いはちゃんと宿るし、受け取ってくださる方がいたり、前向きに未来を生きていく力添えのような形で、お守りとして作品を買ってくださったのだと思いました。」

この時の体験は、現在も彩子さんの活動の中に生きています。

「お守りだったり、その人の背中を押したり、日々を応援するような力を与えられるようなものを作りたいと思っています。」

リフレッシュで訪れた利尻島から旅の楽しさを知る

チャリティー展のあと、個展の話をもらった彩子さんは勢いで受けることにしました。

ところが、まだ自分自身が作品を通して伝えたいことがあいまいな中の個展開催は、彩子さんにとって自分を混乱させることになりました。

全てをリセットしたくなり、思い切って飛び出した先は、北海道の利尻島でした。

「人があまりいないところに行きたかったんです。」

利尻島で1ヶ月を過ごし、いろいろな人と出会ったことで旅の面白さに夢中になりました。

もっといろんな所へ行ってみたいと、簡単には行けなそうなところを選んで各地を点々としました。

徳之島、ハワイ、アメリカのセドナ、父島、アジア各地。

ハワイのオアフ島にて

このうち、セドナでの、ネイティブアメリカンのドリームキャッチャーとの出会いは彩子さんに衝撃を与えました。

「装飾品として存在しているのに、子供たちを想う強い気持ちが込められていることに雷に打たれたみたいな気持ちになりました。」

子供の選択を信じて、お守りとして作られていることを知り、自分もいつかそんなふうに思いを込めたものを作りたいと思いました。

ドリームキャッチャー作りをスタート

小笠原諸島の父島でも、ドリームキャッチャーに触れ、簡単なものを作ったことでよりイメージが湧いた彩子さんは、父島を出て、アジアを旅する時にドリームキャッチャーの素材を探しました。

最終的にタイ北部の小さな町に住むことに決め、腰を据えてドリームキャッチャーを作り始めました。

タイで作ったドリームキャッチャー

小さな町でしたが、オーガニックのものや最先端のものもあり、バランスが良かったことが町を気に入った理由でした。

タイのコムローイ祭りで空に放たれるランタンに使われる竹ひご素材は、ドリームキャッチャーの輪っかの部分に応用できるなど、自然素材が手に入ることも良い点でした。

このドリームキャッチャーの販売から、彩子さんはブランドを立ち上げ、オンラインショップをスタートしました。

その後、お守りのように人の力になるものを作れたらとアクセサリー製作も始めました。

タイ生活を満喫していた彩子さんでしたが、公私共に辛い時期があり、リセットをするつもりで日本への帰国を決めました。帰国前には、気分を変えるために立ち寄ったネパールでも現地の素材と出会い、現地の人たちとの交流を楽しみました。

ネパールで取り組んだ楽器作り

帰国後は地元の鳥取に戻り、展示会や個展などの活動を再開。

ドリームキャッチャーやアクセサリー

ブランドをしながら、芸術祭や県外のレジデンス活動に参加するなど精力的に動きました。

イタリアでアクセサリー作りに没頭

イタリアでのポップアップ出展

この後、彩子さんは芸術祭でアーティストとして参加していたイタリア人の夫と出会い、結婚とともにイタリアへ移住し、2年間住みます。

イタリアでは、慣れない場所の上、コロナ禍まっただなかで初めは心が塞ぎましたが、製作に集中できる時間がとれ、アクセサリーをメインに出展活動にも挑戦。

イタリアで生まれた鳥の耳飾り(中央)

沢山のアクセサリー作りの中で生まれたのが、”鳥の耳飾り”です。

この鳥は、「遠く離れた場所でも心の距離は変わらない、いつも鳥のように飛んでいける」という思いが込められいるそうです。

日本や、旅先で出会った色んな人たちと物理的な距離はあっても、心の中ではいつでもそこに飛んで行けます。

言葉も通じない異国の地で、自分が作ったアクセサリーが人を繋いでくれました。

ワイルドシルクを使う

ワイルドシルクの糸巻きと作品

タイにいるころから、作品制作にはヘンプの糸を使用していましたが、この素材が手に入らなくなり、彩子さんは代わる素材を探していました。

人の肌に良い素材を探す中で出会ったのが、シルクでした。

シルクの中でも、野生種のワイルドシルクを気に入り、さっそく使い始めました。

ところが、イタリアから日本に帰国後、いつもの仕入先からシルクの糸を買えなくなりました。

あちこちを探しましたが、求める物が見つかりません。

ワイルドシルクだったら良いというわけではなく、彩子さんには求める質感がありました。

そんな折、京都府にある絹の精練工場の社長さんと出会い、アドバイスのもと自分でワイルドシルクの糸を作ることになったのです。

「社長さんがどんな文化も商品も、使う人がいなければいつかなくなってしまうから、シルクを使ってくれる人のためならなんでもすると言ってくれて、私もワイルドシルクがなくならないように一石を投じる気持ちで動き出しました。」

中国で作られているシルクを糸に変えて製品にする取り組みが始まりました。

現在、3色を選び、ワイルドシルクで糸を作り、作品製作に使用しています。

製作したワイルドシルクの糸

出来上がった糸は、適度なハリ感で、彩子さんのアクセサリーに自然で力強い輝きをもたらしてくれています。

これから

日本の固有種蚕のまゆ(天蚕)

ワイルドシルクの魅力に取り憑かれている彩子さんは、もっとワイルドシルクのことを知りたいと地元である八頭町で蚕を育てる計画を立てています。

日本の固有種である蚕を育てて、命を繋いでいきたいと考えています。

「素材のルーツを知るのが好きで、まずは育ててみての体感を大事にしたいと思っています。」

ゆくゆくは何かにつながっていくといいなと朗らかな笑顔で語ってくれました。

命ある、思いを込めた作品がこれからも生み出され、つながっていきます。

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HP

インタビューを終えて

彩子さんの作品作りにかける強い思いと意志を、活動のお話の端々から感じることが出来ました。

物はただの”もの”ではなく、その背景に”思い”が存在していること。

作り手の意識と受け手の意識のつながり。

作品を通して伝えたい思いが溢れていました。

出版された彩子さんの本

2023年に出版された、彩子さんのアクセサリーの作り方の本は、レシピだけでなく彩子さんの作品作りにおける思いについても綴られています。

今後はオンラインでのレッスン教室もされるとのことで、興味がある方はSNSをチェックください。

これからの活動も楽しみです。

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