港のある鳥取市賀露町。
海が見える元飲食店に工場をかまえ、クラフトコーラを作る職人がいる。
大分県中津市から大学進学で鳥取に移住。
大学では海の菌類の研究をしていたという宮﨑さんが、クラフトコーラ作りに目覚めたのはなぜだったのか。
宮﨑さんの現在とこれからについてお話を伺った。
大学入学後、海の菌類に興味を持ち研究
動物が好きだったという宮﨑さんは、一時は獣医に憧れを持ち志したが希望大学へ進めなかった。
他にこれというやりたいこともなかったが、「大学には行きたい」という思いから、自分の学力に合った大学を選んだ。
それが、鳥取大学農学部だった。
入学後、宮﨑さんは海の菌類に興味を持った。
「蟹をむくアルバイトもしていて、ズワイガニに寄生する菌がいることを知り、その生態が未知だったので調べてみたいと思って」
日常の体験から海の菌類の世界に興味を持ち、研究に取り組んだ。
「すごく面白かったですね。ワクワクしました」
興味は尽きず、宮﨑さんは学部からさらに大学院へと進学した。
「働くことはいつでもできますけど、大学院での勉強は今しかできないと思ったので進学を選びました」
研究対象に選んだのは、砂浜をきれいにする菌類だ。
砂浜をきれいにする菌類は、浜辺に漂着した流木や海藻などの有機物を分解してくれているという。
さらに海の菌類が多種多様な中でも、生態が特殊な菌類を研究していた宮﨑さんのマニアックな人柄が伺える。
屋台の手伝いからコーラ作りに目覚める
一方、大学生のころから、宮﨑さんは京都でタコス屋台をする先輩を手伝いに行っていた。
タコスを売りながら、自分も何かできないかなと考えた宮﨑さんは、タコスに合うドリンクとしてコーラを思いついた。
スパイスが使われているタコスに、同じくスパイスで出来ているコーラが合うと考えたのだ。
「物作りが好きで、物作りで人を喜ばせることをしたかったので、コーラも自分で作ってみようと思ったんです」
ネットでコーラのレシピを調べ、さっそく試作をはじめた。
当初は、民間の人が運営しているコカコーラを作るためのサイトのレシピからコーラを作り始めた。
すると、いかにも手作り感のある味のコーラになった。
研究熱心な宮﨑さんのコーラの探究は、ここでは終わらなかった。
「コーラ作りを始めた2020年頃は、クラフトコーラが有名になってきたときで専門店のコーラを色々飲んでみてすごいと思いました」
手作りだがコーラの香りとスパイスの味わいに感動したという。
この感動から宮﨑さんはクラフトコーラ作りへと没頭していく。
作ったものは屋台で販売し、お客さんの感想をもらっては改良を試みた。
オリジナルのクラフトコーラで起業を決意
クラフトコーラ作りをしていた宮﨑さんだったが、大学院卒業後は、鳥取のビール工房に就職した。
大学院時代、ビールが好きでビール作りの見学をしていたところ、ビールの工房に出会い、そのまま勤めたのだ。
1年間勤めるなかで、人との接し方、誠実さを学んだ。
「とても勉強になりましたね」
ビール工房に勤めながら、コーラの屋台も時々していた。
コーラ販売が本格的にスタートしたのは、2023年からだ。
ビール工房を辞めることとなり、研究をつづけてきたクラフトコーラで起業を決意した。
2021年、隼ラボが主催する起業プログラムに参加。
このときに、ブランド名「因幡コーラ」を命名する。
「因幡の地域で作るということと、因幡の白兎のストーリーから名付けました」
白兎の物語で、白兎がワニザメをだまして皮をはがれてしまうが、その治療にガマの穂が生薬として使われた。
この生薬とクラフトコーラのスパイスが重なった。
「自分もこんなふうにコーラで誰かを癒やしたい。体も元気になってほしいと思っています」
因幡コーラのパッケージのウサギ柄のブランドマークは、宮﨑さんがデザインしている。
イベント出店からスタート
土日はイベントに出店し、クラフトコーラの販売を続けている。
「まずは実績を作るところから」
2023年には56回の出店をし、多くのファンを作った。
2023年の11月には物件を見つけ、自社工場が誕生。
クラフトコーラ作りの探究を続け、現在は13種類のクラフトコーラがある。
季節の果物や花などを使ったどれもこだわりのコーラだ。
こだわりは、味の”まるみ”である。
「いろいろなコーラを飲んできて、スパイスがとがっていて飲みにくいものも多かったんです。お客さんの反応を見ながら、コーラが飲めない人や子供でも飲める味にしています」
ここには、「クラフトコーラで人々を癒やしたい」という思いがある。
一般には刺激的なイメージがあるコーラを払拭する新感覚のコーラである。
また、クラフトコーラを作るのに、鳥取の強みを活かしたいと考えている。
「水が美味しいのと農産物をふんだんに使ったコーラを出していきたいと思っています」
まさに、因幡コーラは鳥取への地域愛もたっぷり注がれた珠玉のクラフトコーラと言える。
これから
2024年7月に因幡コーラの店舗が賀露にグランドオープンした。
店舗ではコーラのテイクアウトができ、店内で飲むことができる。
イベント出店でクラフトコーラとシロップ瓶の販売も継続。
いずれ、缶コーラを作り、海外に広げていきたい、と宮﨑さん。
缶は耐久性にも優れているため、各地に広められると考えている。
「各地に因幡コーラが広がって、鳥取に来てもらいたいですね。地域PRにもなるといいです。」
因幡コーラで人や地域がつながり、人生が豊かになったらいい、人生を豊かにしたい、と語ってくれた。
海の菌類の研究にはじまり、クラフトコーラ作りの探究へ。
宮﨑さんの研究はまだまだ続く。
インタビューを終えて
因幡コーラさんではじめて飲んだのが、いちごコーラだった。
コーラなのにいちご?という衝撃があった。
飲んで見ると、いちごの味がしっかりするのに後味はコーラ。
美味しくてどんどん飲んでしまった。
スパイスが強いコーラに苦手意識があったが、因幡コーラさんのコーラは優しいのにしっかりコーラを味わえるのがいい。
お話を伺いながら、宮﨑さんのコーラへのこだわりと真剣さがひしひしと伝わってきた。
金木犀の花をつんで、コーラにするというのにも驚いた。
まさにコーラ職人という肩書がしっくりくる。
ぜひ、因幡コーラを飲んでみてほしい。
体にやさしくて、きっと衝撃的な味わいだ。