湖山池近くの住宅街に自宅兼アトリエを持つ森 茂樹さん。
1985年5月に「森絵画研究所」を設立して以来、子供から大人まで絵を教え続けてきた。この40年間に森さんが絵の現場を通して見てきたものは何だったのか。時代の変化を感じながら、ご自身も変わり続けて今がある。
現在、ご自宅のアトリエでの教室のほか、外に出かけてのスケッチ会、鳥取画材での教室を開催。70歳を迎えたこれからも、さらに勉強をして成長していきたいと語る森さんの物語です。
絵が生きている
森さんのアトリエを訪ねた。母屋とは別にアトリエがあり、森さんの絵画常設がされている。
油絵を中心に、水彩、アクリル画が並ぶ。どれも自然を描いており、生き生きと生命力に満ちている。これほどまでに絵が生きているように感じるのはなぜなのか。
「どれも現場で描いているんですよ。わたしは写真を見て描きません」
物を描くのではなく、その場全体の空気や雰囲気を描く。波の絵ひとつとっても、波をじっくり見ていると変化のなかにも一定のリズムがあるという。寄せては返す波のなかにも、たとえば、岩にぶつかるときの泡立ちのパターンがある。そこをとらえて、それらしく描く。これは、写真からは見えてこない世界だ。
「その風景のなかに自分が入っているんです。その場を楽しんで、自分も風景の一部になっているんです」
寒さ暑さ、風を感じてそれすらも絵にする。これが森さんが絵を描くときに大切にしていることだ。森さんの絵にとても臨場感があるのはそのせいだ。
絵が描けることが評価される時代
森さんは、小学生のころから、絵を描くのが好きだった。
自分が描くだけでなく、雑誌の好きな絵を壁に貼るなど絵に囲まれた日常をすごしていた。
今と違い、勉強ができればそれでいいということはなく、運動ができたり、絵が描けることなどの能力があることが評価される時代だった。学校の授業で選ばれた人が絵のコンクールに応募してもらえた。自分の絵が選ばれることで自信も生まれ、絵を描く環境が出来ていった。
美術の学校を卒業したあとは、学校の美術の非常勤講師をする。毎年勤務する場所が変わることが落ち着かないので、自分の教室を持ちたくて絵画教室をスタートした。
時代はちょうど絵画ブーム。森さんが教室を始めると、小学生を中心に大人までたくさんの生徒が絵を習いに来た。当時は絵といえば、油絵。小学生も、高学年になると油絵を描いていたという。生徒は、多いときで70人だったというから相当なにぎわいだ。
描く人の気持ちの反映が作品になる
現在では、子供は少なく大人ばかりという絵画教室。若い人にももっと絵を描いてもらいたいが、スケッチをしていても、近寄ってくるのは年配の人だという。
学校でも、絵の授業は少なくなり、工作が多い。与えられた材料で同じものが出来る。その点、絵には個性が出る。
「絵の作品は結果ではなく、描く過程が大事だと思っています。その人の気持ちの反映が作品になるわけです」
絵を描き出してから完成までの、その人の気持ちの変化が絵には現れる。完成形ばかりが頭にあると動きのない絵になる。写真を見て描いた絵は結果を意識するので、平坦な絵になる。
森さんがスケッチ会を始めたのは、写真を見て描いている人が多いことを気にしてのことだった。
「現場(風景)を見て、自分が感じた世界を描いたらいい」
本人が自由に思うように好きなように描いたらいい。
みんなが先生。一人一人が絵描きとして絵を描いてほしい
10年ほど前から、油絵ではなく、手軽に描ける水彩画が人気。絵を描くための道具もそろえやすい。
森さんの教室では、参加するみんなが先生だという。
先生と生徒という関係ではなく、みんなが仲間。お互いがそれぞれの描き方を見て学び合う。森さん自身も、まだまだ勉強していきたいと熱い。自分にはたくさんの仲間がいるから、一番幸せだと笑顔で語る森さん。
「仲間がいるからがんばれるし、いろんなものが見えてきます」
森さんの絵画教室に参加したい方は、お気軽に下記へご連絡ください。見学も可能です。
「今が一番若いんです。やりたいと思ったときに、始めたらいいですよ」
インタビューを終えて
とにかく、絵の迫力がすごい。
じっと見ていると、まるでその場にいるような気分になる。
森さんの絵に対するお話を聞いて、納得。
現場の空気感を大事にして描いているという衝撃の事実。
ただ、その物や風景を写し取るだけではないのだ。その場に流れている空気や風、匂いまでも感じ取って絵にする。
だからこそ、写真を見ただけでは描けない迫真があるのだ。
鳥取のあまりある自然をリアルな絵に。
ぜひ、気軽に教室に参加してみてください。