tottolive 鳥取・ヒト・コト・カタチ

大山町

【大下志穂さん】全身全霊で作りたいものを作る。言葉にできなくても表現できる

大下 志穂(おおした しほ)さん

鳥取の大山町でここ10年ほど開催されている「イトナミダイセン藝術祭」。

自分たちの暮らしの場でイトナミそのものをアートにするという取り組みだ。

16日間にわたり、大山町長田集落を中心に県内外からさまざまなアーティストたちが集い、日替わりのプログラムが展開する。

この藝術祭の企画をしているのが大下さんだ。

アートディレクターとしてイベントをコーディネートしている。

そのかたわら、占星術を行うという顔ももつ。

今回は、大下さんの魅力に迫ります。

世界の動物に会いたくて海外に興味をもつ

小学生のころから動物が大好き。

日本にはいない動物にも興味を持ち、オーストラリアのコアラやエリマキトカゲなど実際に会いたいと思っていた大下さんは、早くから海外に行きたいという気持ちを持っていた。

海外への興味から、難民支援などの国際協力にも関心が出てきた。

大学時代、国連の難民高等弁務官として世界の難民の保護と救済に活躍していた緒方貞子さんに憧れ、東南アジアへ出かけた。

少数民族に会いたかったこともあり、山岳民族がいるタイの北部に通い続けた。

虎と触れ合う大下さん

先住民たちは自分たちのルーツを知っており、信仰や独自の慣習も持ち続けていることが魅力だった。

日本では失われたアイデンティティを持っている。

大学卒業後、大下さんはタイへ移住。

6年間を過ごした。

タイで友人たちと

日本を離れたことで、日本のいいところ悪いところが明確になった。

自分の常識が世界の常識ではないことを知る。

お互いのバックグラウンドの違いを知って理解し尊重し合う合うことの大切さも学んだ。

カナダ留学からアニメーション制作の世界へ

こうしてタイを満喫した大下さんは、アジアだけではなく、西洋的な価値観にも触れてみたいと英語圏へ行くことにした。

選んだのはカナダ。

子供のころから、ディズニーやジブリなどのアニメーションも好きだったという大下さん。

テレビゲームのCGアニメーションにも感銘を受けた。

CGアニメーション映画の「トイストーリー」や「ファインディングニモ」にも影響を受ける。

当時、CGアニメーションが伸びていく過渡期にあって、大下さんはカバン1つで世界中どこでも住める職場につきたいとCGアニメーション制作を学ぶことにした。

鳥取の淀江町が設置していた海外で学ぶための支援基金を使って、CGの本場カナダへ。

バンクーバーのメディアアート卒業式

鳥取へ戻り、大山アニメーションプロジェクトをスタート

カナダで2年間、CGアニメーション制作を学んだのち、そのまま住み続けたかったがビザの問題があり、大下さんは日本へ帰国。

海外での評価も高く、大好きだった現代美術家でポップアーティストの村上隆さんのもと、映画などアニメーション制作の仕事に携わった。大きなイベントにも関わったことは、その後の活動にとても影響が大きかった。

2年ほど働いた頃、今度は自分の作品も作りたいという気持ちが強くなった。

作品づくりをするなら、地元でしたいと鳥取に戻ることに決めた。

カナダ留学で助成金をもらったこともあり、地元に貢献したいという思いも強かった。

2009年のことである。

鳥取に戻ってきた大下さんは、自身の作品づくりをアニメーションだけでなく、絵画や立体を含め5年ほど取り組んだ。

2013年に、縁あって大山アニメーションプロジェクトをスタート。

鳥取県の暮らしとアートとその先計画という事業の一環でアニメーションを作るプロジェクトだ。

舞台芸術で関わっていた、鳥の劇場の中島さんに声をかけられたことがきっかけだ。

「やっぱりアニメーションを作るプロジェクトをしたいなと思いました」

芸術家が一定期間町に滞在し、様々な交流を通して創作活動などに有益となるプログラムを提供するアーティスト・イン・レジデンス(AIR)の取り組みとして、アニメーション作家を呼び、地域で作品を作って発表するプロジェクトを5年続けた。

鳥取県にはアーティストに移住してもらい、地域との関わりのなかで町を元気にしたいという構想がある。

毎年異なるテーマを決め、アニメーションを発表する。

なかでも印象的だったのが2015年。

女性のアニメーション作家2名を呼んで、実在する人物をモデルに、地域の漁師を主人公にして描いた作品だ。

上映中の様子

作品づくりでは、町と作家との一体感が大きく、様々な人が制作に参加した。

これを機に新たなプロジェクトも立ち上がった。

大山アニメーション祭りでの記念撮影

このときの取り組みがイトナミダイセン藝術祭へとつながっていく。

イトナミダイセン藝術祭〜自分たちのルーツを大事にしたい

アニメーションプロジェクトが拡大し、月毎にプロジェクトがあるなど、充実しながらも集中した制作を難しく感じはじめた大下さん。

仲間と協力して取り組みができるようにプロジェクトを集約することにした。

これが、「イトナミダイセン藝術祭」だ。

2021年イトナミ大山藝術祭で長田集落にミハシラを立てた

その年のテーマを決めて、秋に16日間に集中してさまざまな企画を日替わりで開催する。

中心となる場所は、のどかな田園風景が広がる大山町長田集落だ。

長田集落

これまで様々な人たちと制作をしてきた大下さんは、人との関わりをとても大事にしている。

参加アーティストたちは日々の暮らしのなかでご縁をいただいた人たち。

ジャンルにこだわらないボーダーレスの世界観が根底にある。

6年目を迎えた2022年のテーマは”星うみ”。

占星術で星を読む仕事もしている大下さんは、星と人間との関わりについても掘り下げている。

テーマには、自ら輝き続ける星を無限の創造のエネルギーととらえ、いつの間にか途絶えた星との縁を結び直し、藝術の力で新しい時代の星を生み、星の誕生を祝うという思いが込められている。

その一環で12本のウッドサークルも建てた。

冬のある日のウッドサークル

12本には十二支や12星座の意味があり、東西南北を合わせて天体観測が出来るようにもなっている。

ウッドサークルのなかでポーズ

「宇宙の世界と自分たちのルーツ的な地の世界がくっつく感じが好きです」

この自分たちのルーツを知ることが大下さんの創造力になっているという。

一般的な地球から星を見た視点ではなく、宇宙から太陽系を見る新しい占星術を知りいっきに星の世界に入った。

宇宙の星の世界と地上の神様の世界をつなぐ。

ウッドサークルのなかで舞を踊る

これを藝術に落とし込むのが楽しいと目を輝かせながら大下さんは語ってくれた。

これから

2023年のイトナミダイセンの藝術祭のテーマは、うさぎ年であることと因幡の白ウサギの伝説にちなみ「白兎」。

大きなプロジェクトとしては、この世とあの世をつなぐ乗り物として、丸木舟を作る企画が立ち上がっているという。

古代の日本では、舟型の棺桶に亡くなった人を入れる慣習があり、舟を地上と見えない世界をつなぐものとして見立てている。

この舟を現実的につくることで見えてくるものを子供から大人までみんなで体感したいという。

「深いDNAにつながって生命力がアップするんじゃないかなって」

アーティストは非効率でも全身全霊でつくりたいものを作る。

その作品に触れたときに、言葉にはできなくても受け取るものがある。

感銘を受けて、自らも表現者になっていく人たちがいる。

体験を通して、自分のやりたいことに向き合えるようになった人たちをたくさん見てきたという大下さん。

「誰にも従わず、自分のやりたいことをやるまつろわぬ存在になると創造力が生まれる」

受け身ではない内側から生まれる創造性。

まずは自分が楽しみながら、結果として人々の意識を変えられたらと大下さん。

2021年イトナミダイセン藝術祭

一連の取り組みの根底に流れる大きなパワーの源をみつけた感じがした。

最後に、ぜひイトナミダイセン藝術祭に参加して体験してくださいと笑顔で話してくれた。

詳しくはホームページをチェックしてください。

イトナミダイセン藝術祭

インタビューを終えて

アニメーションの話から私たちのルーツにさかのぼる話までとても濃い内容が展開した。

その好奇心と行動力によっていろんな人を引き付け、つながっていく大下さんの姿が鮮明に浮かび上がってくる。

そのあくなき探求は人々や物事を動かす大きな力。

これからの大山町がどうなっていくのかも楽しみでならない。

ぜひ、みんなで関わって新たな世界を創造していきたい。

RELATED

PAGE TOP